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🎙️ 音声: ずんだもん / 春日部つむぎ(VOICEVOX)
個人開発における最大の失敗は、事業の不確実性が高い初期段階で「将来のスケール」を見越してマイクロサービス化することです。本来、個人開発の強みは「シンプルさ」「意思決定の速さ」「運用負荷の低さ」にあります。モジュール化されたモノリス設計で論理的な境界を引きつつ、必要になるまで物理的な分割を遅延させることで、開発効率と保守性の両立が実現できます。
最新の技術トレンドをキャッチアップすることは、開発者として自然な欲求です。特に個人開発では、自分で技術選定ができる自由さがあり、「Kubernetes」「マイクロサービス」「イベント駆動アーキテクチャ」といったモダンな技術に目が向きやすいでしょう。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
実は、多くの個人開発者がマイクロサービス導入で後悔しています。その理由は、マイクロサービスが解決する問題が、個人開発には存在しないからです。マイクロサービスは、以下のような課題を抱える大規模チーム・大規模システムを想定して設計されました:
個人開発では、これらの課題がほぼ存在しません。むしろ、マイクロサービスの複雑さが、開発速度と保守性を大きく損なってしまうのです。
本記事では、個人開発でマイクロサービスに陥る「沼」の実態、失敗事例、そしてシンプルなモノリス設計で確実に成長させる方法を詳しく解説します。
マイクロサービス導入で失敗する個人開発者には、明らかな共通パターンがあります。実際の失敗事例から、その構造を整理してみましょう。
事例:事業方針変更による負債化
ある個人開発者は、当初「複数のSaaSサービスを展開する構想」を持っていました。この前提のもと、モノリスから「複数サービスで共通利用されそうな機能」をマイクロサービスとして切り出しました。認証機能、ユーザー管理、支払い処理など、確かに複数プロダクトから使いそうに見えたのです。
しかし、事業方針が変わりました。複数プロダクト展開は「当面は停止」され、結局1つのプロダクト中心の運用が続いています。
その結果、マイクロサービスとして切り出されたコンポーネントは、実質的には1つのプロダクトからしか使われず、「分散モノリス」という最悪の状態に陥りました。ネットワーク経由の通信が必要になり、トランザクション境界が曖昧になり、デプロイが複雑になったのに、その複雑さに見合うメリットが得られなかったのです。
この失敗から学べる教訓:
事例:障害追跡の困難化
ある個人開発者は、モノリスを勢いでマイクロサービスに分割しました。「ユーザーサービス」「オーダーサービス」「メールサービス」「決済サービス」といった具合に、機能単位で分割したのです。
当初は「きれいに分割できた」と思っていました。しかし、実装を進めるにつれて、サービス間の依存関係が増加していきました。オーダーサービスはユーザーサービスを呼び出す必要があり、決済サービスはオーダーサービスを呼び出す必要があり、メールサービスは複数のサービスから呼び出される…
結果として、1つのユースケース実行に複数サービスが関与するようになりました。ユーザーが注文を確定する処理では、オーダーサービス→ユーザーサービス→決済サービス→メールサービスと、4つのサービスが連鎖的に呼び出されるようになったのです。
障害が発生したとき、「どのサービスのどの依存が原因か」を追うのが極めて困難になりました。タイムアウトが発生しているのか、サーキットブレーカーが動作しているのか、ネットワークの問題なのか、それとも特定のサービスの処理が遅いのか…ログを横断的に見ながら、各サービスのトレースを追う必要があり、デバッグに膨大な時間がかかるようになったのです。
この失敗から学べる教訓:
事例:「動いている」けど「運用できない」状態
ある個人開発者は、マイクロサービスに分割することに成功しました。複数のサービスが独立デプロイ可能になり、技術的には「マイクロサービス化できた」と言える状態です。
しかし、運用が回りません。以下のような問題が発生しました:
分散トレーシング(OpenTelemetryなど)、集中ログ管理、APM(Application Performance Monitoring)といった基盤を整備していなかったため、問題が発生したときに対応できないのです。
この失敗から学べる教訓:
事例:デプロイパイプラインの肥大化
複数のマイクロサービスを管理するようになると、CI/CDパイプラインが急速に複雑化します。
さらに、Kubernetesを使うなら:
ローカル開発環境も複雑になります。個人開発では、docker-composeで全サービスを起動するだけでも、ファイルが肥大化し、メモリ消費が増加し、「開発環境が起動しない」という事態が頻繁に発生するようになります。
結果として、機能開発に充てられる時間が減り、インフラ・デプロイ周りの作業に時間を取られるようになるのです。個人開発の最大の利点である「意思決定の速さ」「実装の速さ」が失われてしまいます。
この失敗から学べる教訓:
上記の失敗パターンを見ると、個人開発にはモノリス設計が適している理由が明らかになります。
モノリス設計では、1つのコードベース、1つのデプロイパイプライン、1つの本番環境で完結します。
機能追加の流れ:
このシンプルさが、個人開発の強みです。意思決定から本番反映まで、最小限のステップで進められます。
一方、マイクロサービスでは、各サービスごとにこのパイプラインが必要になり、サービス数に比例して複雑度が増加します。
モノリスでは、通常1つのデータベースを使用します。複数テーブルにまたがるトランザクションは、ACID特性を持つデータベーストランザクションで保証されます。
例えば、「ユーザー登録と初期設定を同時に行う」という処理は:
BEGIN TRANSACTION
INSERT INTO users (...) VALUES (...)
INSERT INTO user_settings (...) VALUES (...)
COMMIT
どちらかが失敗すれば、両方ロールバックされます。整合性が保証されます。
マイクロサービスでは、このような処理が複数サービスにまたがる場合、分散トランザクション(Sagaパターンなど)を実装する必要があります。これは複雑で、バグが入りやすく、運用も困難です。
モノリスなら、ローカルでアプリケーションを起動するだけで、開発環境が整います。
docker-compose up
# または
npm install && npm start
1つのコマンドで、全機能が動作する環境ができます。
マイクロサービスでは、複数のサービスを起動する必要があり、docker-composeファイルが肥大化し、メモリ消費が増加し、「開発環境が起動しない」という問題が頻繁に発生します。
モノリスでは、1つのアプリケーションのログを見ればよいので、問題の原因特定が比較的容易です。
[2025-12-15 10:23:45] ERROR: Database connection failed
[2025-12-15 10:23:46] ERROR: User registration failed due to database error
1つのログストリームで、処理の流れを追跡できます。
マイクロサービスでは、複数のログストリームを横断的に見る必要があり、タイムスタンプのずれ、サービス間通信の遅延、非同期処理の複雑さなどが絡み、原因特定に膨大な時間がかかります。
モノリスでは、1つのアーティファクトをデプロイするため、デプロイプロセスが単純です。
テスト → ビルド → デプロイ
失敗したら、前のバージョンにロールバックするだけです。
マイクロサービスでは、複数のサービスを協調してデプロイする必要があり、「あるサービスは新バージョン、別のサービスは旧バージョン」という不整合な状態が生じやすく、互換性の問題が発生しやすくなります。
「でも、モノリスってスケーラビリティが低いんじゃないの?」という疑問が出てくるでしょう。
実は、そうではありません。モノリスでも、インフラレベルでの工夫により、かなり大きなスケールまで対応できます。
最初は、サーバーのスペックを上げるだけです。
これは最も簡単なスケーリング方法で、アプリケーションコードの変更は不要です。
例:AWS の場合
データベースも同様です:
この段階では、アプリケーション設計の変更がほぼ不要です。
トラフィックが増加して、単一サーバーのスペック上限に達したら、複数サーバーでの運用に移行します。
アプリケーションレイヤの横スケール:
同一のモノリスアプリケーションを複数起動し、ロードバランサで分散します。
クライアント
↓
ロードバランサ(ALB/NLB)
↓
┌─────────────────────┐
│ アプリ instance 1 │
│ アプリ instance 2 │
│ アプリ instance 3 │
└─────────────────────┘
↓
データベース(単一)
ここで重要なのは、アプリケーションはステートレスに設計することです。
こうすることで、どのインスタンスにリクエストが来ても、同じ結果が得られます。
データベースレイヤの横スケール:
読み取りが多い場合は、データベースのレプリカを追加します。
アプリケーション層
↓
┌──────────────────┐
│ 書き込み → マスター DB │
│ 読み込み → レプリカ DB │
└──────────────────┘
マスターに書き込み、レプリカから読み込むことで、読み取り負荷を分散できます。
さらに成長すると、異なる役割のプロセスを分離することで、効率を上げられます。
Web プロセスとワーカープロセスの分離:
Web リクエスト
↓
┌──────────────────┐
│ Web プロセス群 │ ← HTTP リクエスト処理
│(高速レスポンス) │
└──────────────────┘
↓
ジョブキュー(Redis など)
↓
┌──────────────────┐
│ ワーカープロセス群 │ ← 時間がかかる処理
│(非同期処理) │
└──────────────────┘
例えば、メール送信・画像処理・レポート生成などの重い処理は、ワーカープロセスで非同期に処理します。これにより、Web プロセスはすぐにレスポンスを返せるようになり、ユーザー体験が向上します。
重要なのは、Web プロセスとワーカープロセスは同じコードベースから起動されるということです。マイクロサービスのように独立した複数のアプリケーションではなく、同一のアプリケーションを異なるモードで起動しているだけです。
データベースへのアクセスが多い場合は、キャッシュレイヤを導入します。
アプリケーション層
↓
┌──────────────────┐
│ Redis キャッシュ │ ← 頻繁にアクセスされるデータ
└──────────────────┘
↓
データベース ← キャッシュミス時のみアクセス
ユーザー情報、設定値、集計結果など、頻繁にアクセスされるデータをキャッシュすることで、データベース負荷を大幅に削減できます。
さらに進んだスケーリングとして、読み取りと書き込みのデータベースを分離することもできます(CQRS パターン)。
書き込みリクエスト → マスター DB
読み取りリクエスト → 読み取り最適化 DB(Elasticsearch など)
ただし、これは複雑さが増すため、本当に必要になるまで遅延させるべきです。
モノリスで成長させるには、設計と運用の工夫が必要です。
物理的には1つのアプリケーションですが、論理的には明確なモジュール境界を引くことが重要です。
ドメイン駆動設計では、ビジネスロジックを「境界付けられたコンテキスト(Bounded Context)」に分割します。
例:ECサイトの場合
モノリスアプリケーション
├── ユーザーコンテキスト
│ ├── ユーザー登録
│ ├── プロフィール管理
│ └── 認証
├── 商品コンテキスト
│ ├── 商品情報管理
│ ├── 在庫管理
│ └── 検索
├── 注文コンテキスト
│ ├── 注文作成
│ ├── 注文履歴
│ └── キャンセル処理
└── 決済コンテキスト
├── 決済処理
├── 返金
└── 取引記録
各コンテキストは、ディレクトリ構成やパッケージ設計で物理的に分離します。
src/
├── users/
│ ├── domain/
│ ├── application/
│ ├── infrastructure/
│ └── presentation/
├── products/
│ ├── domain/
│ ├── application/
│ ├── infrastructure/
│ └── presentation/
├── orders/
│ ├── domain/
│ ├── application/
│ ├── infrastructure/
│ └── presentation/
└── payments/
├── domain/
├── application/
├── infrastructure/
└── presentation/
この設計により、将来マイクロサービスに分割する場合にも、その境界が明確になります。
各コンテキスト内で、層別アーキテクチャを採用します。
Presentation Layer(プレゼンテーション層)
↓
Application Layer(アプリケーション層)
↓
Domain Layer(ドメイン層)
↓
Infrastructure Layer(インフラストラクチャ層)
この分層により、ビジネスロジックが Web フレームワークに依存せず、テストしやすくなります。
異なるコンテキスト間の通信は、明確に定義されたインターフェイス(内部 API)を通じて行います。
// users/application/user_service.go
type UserService interface {
GetUser(ctx context.Context, userID string) (*User, error)
RegisterUser(ctx context.Context, email, password string) (*User, error)
}
// orders/application/order_service.go
type OrderService struct {
userService users.UserService // 内部 API
}
func (os *OrderService) CreateOrder(ctx context.Context, userID string, items []Item) (*Order, error) {
// ユーザーサービスの内部 API を呼び出す
user, err := os.userService.GetUser(ctx, userID)
if err != nil {
return nil, err
}
// ...
}
このように、コンテキスト間の依存関係を明確にすることで、将来の分割が容易になり、現在の保守性も向上します。
モノリスでは、複数のコンテキストが同一のデータベースを使用します。スキーマ設計に注意が必要です。
ベストプラクティス:
-- users スキーマ
CREATE TABLE users (
id UUID PRIMARY KEY,
email VARCHAR(255) UNIQUE NOT NULL,
password_hash VARCHAR(255) NOT NULL,
created_at TIMESTAMP NOT NULL
);
-- orders スキーマ
CREATE TABLE orders (
id UUID PRIMARY KEY,
user_id UUID NOT NULL, -- 外部キーではなく、値として保持
total_amount DECIMAL(10, 2) NOT NULL,
status VARCHAR(50) NOT NULL,
created_at TIMESTAMP NOT NULL
);
重要なのは、orders テーブルが users テーブルに直接 JOIN しないということです。ユーザー情報が必要な場合は、アプリケーション層で UserService を呼び出して取得します。
このスキーマ設計により、将来的に orders を独立したマイクロサービスに分割する場合、テーブルの物理的な分離が容易になります。
モノリスは、放置するとスパゲッティコードになりやすいです。定期的なリファクタリングが必須です。
リファクタリングの項目:
個人開発では、「機能追加」と「リファクタリング」のバランスが重要です。短期的には機能追加に時間を使いたいですが、リファクタリングを怠ると、長期的には開発速度が低下します。
推奨される配分は、機能追加に 70%、リファクタリング・技術負債削減に 30% 程度です。
モノリスの最大の利点を活かすため、ローカルで全機能を動作させられる環境を整備します。
docker-compose.yml の例:
version: '3.8'
services:
app:
build: .
ports:
- "8000:8000"
environment:
DATABASE_URL: postgresql://user:password@db:5432/myapp
REDIS_URL: redis://redis:6379
depends_on:
- db
- redis
volumes:
- .:/app
db:
image: postgres:15
environment:
POSTGRES_USER: user
POSTGRES_PASSWORD: password
POSTGRES_DB: myapp
ports:
- "5432:5432"
volumes:
- postgres_data:/var/lib/postgresql/data
redis:
image: redis:7
ports:
- "6379:6379"
volumes:
postgres_data:
開発者は、たった1つのコマンドで全機能が動作する環境を構築できます:
docker-compose up
モノリスでも、本番環境での問題を素早く検出・解決するため、観測性が重要です。
実装すべき項目:
個人開発向けの軽量な実装例:
# Python + Flask の例
import logging
import json
from datetime import datetime
# 構造化ログの設定
class JSONFormatter(logging.Formatter):
def format(self, record):
log_data = {
'timestamp': datetime.utcnow().isoformat(),
'level': record.levelname,
'message': record.getMessage(),
'module': record.module,
}
return json.dumps(log_data)
logger = logging.getLogger(__name__)
handler = logging.StreamHandler()
handler.setFormatter(JSONFormatter())
logger.addHandler(handler)
@app.route('/orders', methods=['POST'])
def create_order():
logger.info('Order creation started', extra={'user_id': user_id})
try:
order = OrderService.create(user_id, items)
logger.info('Order created successfully', extra={'order_id': order.id})
return order.to_dict(), 201
except Exception as e:
logger.error('Order creation failed', extra={'error': str(e)})
raise
このような構造化ログにより、本番環境での問題を素早く特定できます。
「モノリスでいつまで対応できるのか?」という疑問は、多くの開発者が持つでしょう。
実際には、ほとんどの個人開発プロジェクトでは、モノリスの限界に到達することはありません。しかし、参考までに、限界到達の兆候を整理します。
1. データベースがボトルネックになる
このタイミングで初めて、「特定の機能を独立させる」という選択肢が現実的になります。
2. デプロイ頻度が低下する
このタイミングで、「機能ごとの独立デプロイ」を検討する価値が出てきます。
3. チーム規模の拡大
このタイミングで、「チームごとの責任範囲を明確にする」という観点から、マイクロサービス分割を検討する価値が出てきます。
ただし、これらの兆候が見えても、すぐにマイクロサービス化するべきではありません。
以下の判断基準を参考に、段階的に対応します:
現在の問題は、本当にアーキテクチャの問題か?
分割による複雑さの増加は、得られるメリットを上回らないか?
事業の成長が確実か?
これらの質問に「はい」と答えられる場合のみ、マイクロサービス化を検討する価値があります。
もし、本当に必要になった場合、どのように段階的に分割するか、その戦略を解説します。
最も安全な移行パターンは、「Strangler Fig パターン」です。既存のモノリスを新しいサービスで徐々に置き換えていく方法です。
クライアント
↓
新規 API ゲートウェイ
↓
┌─────────────────────────┐
│ 新しいマイクロサービス │
│(段階的に追加) │
└─────────────────────────┘
↓
既存モノリス(段階的に削減)
具体的な流れ:
API ゲートウェイを導入
機能ごとに新サービスを実装
既存モノリスをリファクタリング
最終的には、モノリスが不要に
このパターンの利点は、いつでも巻き戻せることです。新サービスに問題があれば、API ゲートウェイの設定を変更して、既存モノリスにリクエストを戻すだけです。
完全なマイクロサービス化の前に、モジュラーモノリスという中間段階があります。
物理的には1つのアプリケーションですが、モジュール間の通信を明確に定義し、将来の分割に備えます。
モノリス内部
├── ユーザーモジュール
│ └── 内部 API を提供
├── 商品モジュール
│ └── 内部 API を提供
├── 注文モジュール
│ └── 内部 API を提供
└── 決済モジュール
└── 内部 API を提供
各モジュールは、他のモジュールの内部実装に依存せず、公開 API 経由でのみ通信します。
このモジュラーモノリスの設計により、将来的に特定のモジュールを独立したマイクロサービスに分割する場合、その内部 API をネットワーク越しの API に変更するだけで済みます。
個人開発で技術を選定する際の判断軸をまとめます。
新しい技術やアーキテクチャに惹かれるのは自然ですが、以下の質問を自問してください:
現在の問題を解決するか?
チーム規模に見合っているか?
事業リスクはないか?
「シンプルなモノリス」は、一見、つまらなく見えるかもしれません。
しかし、個人開発における「シンプルさ」の価値は、非常に高いです:
これらすべてが、個人開発の競争力です。
技術者として、最新の技術をキャッチアップしたいという気持ちはよくわかります。
しかし、個人開発では、ビジネス要件を優先するべきです。
技術学習は、余裕がある場合に、サイドプロジェクトで行うのが良いでしょう。本業(個人開発プロジェクト)では、確実で安定した技術を選ぶべきです。
実際にモノリス設計で成功しているプロジェクトを見てみましょう。
Plausible Analytics は、プライバシー志向のアクセス解析ツールです。個人開発から始まり、現在は複数人のチームで運用されていますが、本質的にはモノリスアーキテクチャを維持しています。
アーキテクチャの特徴:
成功の要因:
Discourse は、オープンソースのフォーラムソフトウェアです。Ruby on Rails で実装され、モノリスアーキテクチャを前提に設計されています。
アーキテクチャの特徴:
成功の要因:
A: 確かに、マイクロサービスは「特定の機能を独立してスケールさせる」ことができます。
しかし、個人開発では、そのような局所的なスケーリングが必要になることはほぼありません。むしろ、全体的なスケーリング(トラフィック増加への対応)が必要になり、この場合、モノリスの水平スケールで十分に対応できます。
さらに、マイクロサービスの複雑さによる運用コスト増加は、得られるスケーラビリティのメリットを上回る可能性が高いです。
A: これは、マイクロサービスが活躍する場面です。
しかし、個人開発では、複数の言語・フレームワークを使う必要がほぼありません。むしろ、1 つの言語・フレームワークに習熟することで、開発効率が向上します。
もし、複数の言語を学びたいのであれば、本業のプロジェクトではなく、サイドプロジェクトで行うべきです。
A: チーム規模が増えた場合、モノリスアーキテクチャのメリットは減少します。
しかし、その場合でも、いきなりマイクロサービス化するのではなく、以下の段階を踏むべきです:
A: モノリス = レガシーコード、という誤解があります。
実は、マイクロサービスでも、レガシーコードになる可能性は高いです。むしろ、分散システムの複雑さにより、レガシーコード化しやすいと言えます。
重要なのは、継続的なリファクタリングと技術投資です。モノリスでも、継続的にコードを改善していれば、レガシーコード化を防ぐことができます。
個人開発でマイクロサービス沼に陥らないための、最終的なアドバイスをまとめます。
個人開発の最大の競争力は、「意思決定の速さ」「実装の速さ」「運用の容易さ」です。これらを損なうアーキテクチャの複雑さは、絶対に避けるべきです。
将来の問題に備えるのではなく、現在実際に発生している問題を解決することに注力してください。
アーキテクチャは、ビジネスの成長とともに進化させるべきです。最初からマイクロサービスを目指すのではなく、モノリスから段階的に進化させてください。
技術的な興味も重要ですが、個人開発では、ビジネス要件を最優先してください。技術学習は、余裕がある場合にサイドプロジェクトで行いましょう。
これが、すべての基本です。
「必要になるまで分割しない」
この原則を守ることで、個人開発プロジェクトの成功確率は大幅に向上します。
個人開発は、自分で技術選定ができる自由さがあります。その自由さを活かして、確実で安定したアーキテクチャを選択してください。
シンプルなモノリス設計は、一見つまらなく見えるかもしれません。
しかし、その シンプルさの中にこそ、個人開発の強みがあるのです。
あなたのプロジェクトが、マイクロサービス沼に陥らず、確実に成長していくことを願っています。
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