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10年ぶりのArduino復帰で感じた2025年のマイコン・IoT界隈の進化

👤 いわぶち 📅 2025-12-02 ⭐ 4.5点 ⏱️ 18m
10年ぶりのArduino復帰で感じた2025年のマイコン・IoT界隈の進化

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🎙️ 音声: ずんだもん / 春日部つむぎ(VOICEVOX)

10年ぶりの復帰、その衝撃

10年前にArduinoの世界から離れていた私が、最近になって再びマイコン開発に戻ってきました。当時はArduino Unoとセンサーの組み合わせで、シンプルな電子工作を楽しむのが精一杯でした。しかし、2025年の現在、マイコン・IoT界隈は想像をはるかに超えた進化を遂げていたのです。

最初に驚いたのは、マイコンの上でAIが直接動く時代が来ていたという事実です。クラウド通信なしに、デバイス単体で機械学習の推論を実行できるようになっているなんて。当時は、複雑な処理はすべてサーバー側で行うのが当たり前でした。それが今、センサーとマイコンだけで完結する世界が現実になっています。

このギャップを埋めるべく、2025年のマイコン・IoT界隈がどのように進化したのか、実装経験を交えながら詳しく解説していきます。

エッジAIの実装が現実的に:TinyMLの台頭

マイコン上でAIが動く時代

2025年現在、**TinyML(Tiny Machine Learning)**という概念が急速に浸透しています。これは、マイコンのような低消費電力・低メモリのデバイス上で機械学習モデルを実行する技術です。当時は、こんなことは不可能だと思われていました。

TinyMLの実装ワークフローは意外とシンプルです。まずセンサーからデータを大量に収集し、TensorFlowやPyTorchといった機械学習フレームワークでモデルをトレーニングします。次にそのモデルをマイコン用のコードに変換し、センサー読み取りプログラムと一緒にマイコンに書き込みます。すると、マイコンに接続されたセンサーがデータを取得した瞬間に、デバイス上で即座に推論処理が実行されるのです。

この方式の最大のメリットは、クラウド通信が不要という点です。レイテンシーがほぼゼロに近く、プライバシーも完全に保護されます。インターネット接続が不安定な環境でも、デバイスは自律的に動作し続けます。

実務で活躍するTinyMLの事例

農業分野では、土壌センサーを搭載したTinyMLデバイスが電力供給なしで長期間にわたり土壌の水分・栄養状態を分析し、水やりの最適なタイミングを判断しています。バッテリー駆動で数ヶ月間連続稼働することも珍しくありません。

インフラ監視分野では、橋やトンネルの振動センサーがバッテリー駆動で数年間にわたり構造の異常を監視し続けています。異常検知に機械学習を使うことで、従来の単純な閾値判定では見逃していた微妙な劣化パターンも捉えられるようになりました。

製造業での活躍も目立ちます。モーターやベアリングに加速度センサーとマイクを内蔵したTinyMLデバイスを取り付けると、常に機械の振動パターンや稼働音を監視し、学習済みの「正常な状態」のモデルと比較して異常を検知できます。これにより、予知保全が現実的になり、機械の突然の故障を事前に防ぐことができるのです。

組立ラインの品質検査では、小型カメラを搭載したTinyMLデバイスが流れてくる製品の画像をリアルタイムで分析し、部品の欠落、ネジの緩み、表面の傷といった外観上の欠陥を瞬時に検出します。人間の検査官では見逃すような細かい欠陥も、学習済みのモデルなら確実に捉えます。

開発環境の充実

嬉しいことに、TinyML開発環境も大きく進化しました。インフィニオンの「DEEPCRAFT™」のようなエッジAIプラットフォームでは、赤ちゃんの泣き声検出、咳検出、工場警報検出といった完全にテストされた市場対応モデルが用意されており、企業が独自に機械学習モデルを開発せずに製品にAIを追加できます。

このプラットフォームはレーダー、マイク、カメラ、IMU(慣性計測装置)、加速度計といった様々なセンサーに対応しており、センサーからのデータを時系列データと組み合わせて活用できます。つまり、複数のセンサー入力を統合した複雑な推論が可能になるということです。

実装時の注意点と課題

ローカルAI導入で気をつけるべきは、モデルの軽量化と精度のバランスです。マイコンのメモリやCPU性能は限られているため、クラウド用の大規模モデルをそのまま使うことはできません。モデルの圧縮技術(量子化、プルーニングなど)を適切に適用する必要があります。

また、センサーの品質やキャリブレーションも重要です。正確なデータ収集がなければ、いくら優れたモデルでも実用的な推論はできません。データ収集段階での細心の注意が、後々の精度を大きく左右します。

Arduino開発環境の進化:IDEからクラウド連携まで

Arduino IDEの大幅な改善

10年前のArduino IDE 1.0系と比べて、現在のArduino IDE 2.3.6以降は別物です。単なるコード編集ツールではなく、統合開発環境として大きく進化しています。

テキストエディタ、コンパイル機能、ボード書き込み機能がすべて統合されているのはもちろん、シリアルモニタやシリアルプロッタといったデバッグツールも内蔵されています。これにより、複雑なプロジェクトでもIDE内で完結できるようになっています。

さらに注目すべきは、複数のプログラミング言語に対応した開発環境の登場です。従来のArduinoスケッチ(C/C++ベース)に加え、Pythonコーディングも可能になり、さらに「Arduino App Lab」という新しい開発ツールがリリースされました。このApp Labを使えば、Arduinoスケッチ、Pythonスクリプト、AIモデルを組み合わせたアプリケーションを単一のインターフェースから構築できます。

初心者が最もつまずきやすいポイントとして、IDE側でどのボードをどのポートで使うかの設定があります。ここは慎重に行う必要がありますが、最新のIDEは自動認識機能が大幅に改善されているため、以前ほどの手間はかかりません。

ボードマネージャーの充実

10年前はボード追加が手動で複雑でしたが、現在はボードマネージャーから簡単にインストール可能です。ESP32やESP8266などの高性能マイコンボードが標準サポートされるようになり、選択肢が大幅に増えました。

このボードマネージャーのおかげで、Arduinoスケッチの資産をそのまま活かしながら、より高性能なボードに移行できるようになったのです。

Arduino Cloudとの連携

Arduino Cloudとの統合が標準化されました。最新のボード、特にArduino Nesso N1はArduino Cloudに対応しており、遠隔制御やデータの可視化が可能です。これにより、センサーデータの収集や機器の監視をクラウド経由で実行できるようになり、IoTプロジェクトの実装がより現実的になっています。

クラウド側で長期的なトレンド分析や機械学習による予測を行い、その結果をデバイス側にフィードバックする、というハイブリッドなアーキテクチャが容易に構築できるようになったのです。

ハードウェアの多様化:選択肢の爆発

新しいボードの登場

10年前は「Arduinoか、それ以外か」という二者択一でしたが、2025年の現在、選択肢は爆発的に増えています。

Arduino UNO Qは、従来のUNOシリーズの概念を大きく変えるボードです。Qualcomm® Dragonwing™ QRB2210マイクロプロセッサとSTM32U585マイクロコントローラを搭載したデュアルブレインアーキテクチャにより、AI処理からリアルタイム制御まですべてを処理できます。物体認識、音声UI、モーション検出といった高度なAIアプリケーションに対応し、視覚認識と音声認識が組み込まれているため、プロジェクトは環境にインテリジェントに対応できるようになりました。

一方、コンパクトさを重視したIoT開発キットも登場しています。2025年11月に発表された「Arduino Nesso N1」は、M5Stackとの共同開発で、ESP32-C6を搭載した手のひらサイズのデバイスです。Wi-Fi 6、Bluetooth 5.3、Zigbee、LoRaなど複数の無線通信規格に対応し、1.14インチのタッチスクリーン、6軸IMU、赤外線送信機を内蔵しています。

本体サイズは18mm×45mmというポケットに入るコンパクト設計でありながら、GroveコネクタとQwiicコネクタを搭載して拡張性も確保しています。この小ささで、これだけの機能を詰め込めるようになったというのは、半導体技術の進化を象徴しています。

性能の飛躍的向上

10年前のArduino Unoのスペック:

  • クロック周波数:16 MHz
  • RAM:2 KB
  • Flash:32 KB

現在のESP32のスペック:

  • クロック周波数:240 MHz(最大)
  • RAM:520 KB + 外付けPSRAM対応
  • Flash:4 MB

単純に比較すると、クロック周波数は15倍、RAMは260倍以上に拡大しています。これは、当時では考えられなかったような複雑な処理が可能になったということです。

Raspberry Pi Picoの登場と棲み分け

Raspberry Pi Picoは、ARM Cortex-M0+アーキテクチャを採用した新世代マイコンです。クロック周波数は133 MHz、RAMは264 KB、Flash は2 MBという仕様で、価格帯は$4~$10程度です。

ESP32の方が処理能力とメモリで優位ですが、PicoはARM生態系との互換性が大きな強みです。MicroPythonやC言語での開発が容易で、既存のARM資産を活かせます。

10年前にはこのような選択肢はありませんでした。用途に応じて、最適なボードを選べるようになったというのは、マイコン開発の民主化が進んだことを意味しています。

学習環境の大幅な整備

教育現場での浸透

かつてArduinoは「趣味人向けの工作ツール」でしたが、今では高等学校の正規授業に組み込まれています。鳥取県立鳥取湖陵高等学校の情報科学科では、LEDの点滅やセンサー制御を体験学習として実施しており、生徒たちが「プログラムが思い通りに動くたびに笑顔を見せる」という光景が当たり前になっています。

これは、Arduinoが教育的価値を認められた証拠です。10年前は、こんなことは考えられませんでした。

充実した学習教材

2025年現在、Arduinoの入門書から実践書まで、質の高い日本語教材が豊富に揃っています。特に注目すべきは、プログラミングと電子工作の両方が初心者向けに丁寧に解説されている点です。

基礎編では電子回路の基本知識から始まり、実践編では「人が近づくと光るイルミネーション」「リモコンで動かせる扇風機」「ロボット風バギー」といった実践的なプロジェクトまで段階的に学べます。

かつては、こうした教材を探すのに苦労しました。英語のドキュメントを読むのが当たり前でしたから。

スキルアップの機会

愛知県の三河高等技術専門校では「Arduinoで学ぶ初めてのマイコン制御」というスキルアップ講座が開催されており、働きながら学べる環境が整備されています。また、大学のオープンキャンパスでもArduinoを使ったロボット・機械体験が提供されており、より多くの人が気軽に試せるようになっています。

実践的なプロジェクト事例

Lチカから始める基本

復帰後の最初のステップは、やはりLチカ(LEDの点灯・消灯)です。Arduino Nesso N1では以下のようなシンプルなコードで動作確認できます:

void setup() {
  pinMode(LED_BUILTIN, OUTPUT);
}

void loop() {
  digitalWrite(LED_BUILTIN, LOW);  // LED ON
  delay(1000);
  digitalWrite(LED_BUILTIN, HIGH); // LED OFF
  delay(1000);
}

このコードは10年前と変わっていません。つまり、基本的な考え方は変わっていないということです。ただし、その上に乗っかる機能が圧倒的に増えているのです。

ステップアップ:センサーとボタン連携

次のステップでは、ボタン入力やセンサー連携に進みます。温度・湿度センサー(DHT22)や距離センサー(超音波センサー)の接続、Wi-Fi/Bluetooth通信によるIoTプロジェクトへと展開できます。

例えば、以下のようなコードで温度・湿度を読み取り、Wi-Fi経由でクラウドに送信することができます:

#include <WiFi.h>
#include <DHT.h>

#define DHTPIN 4
#define DHTTYPE DHT22
DHT dht(DHTPIN, DHTTYPE);

const char* ssid = "your_SSID";
const char* password = "your_PASSWORD";

void setup() {
  Serial.begin(115200);
  dht.begin();
  WiFi.begin(ssid, password);
  
  while (WiFi.status() != WL_CONNECTED) {
    delay(500);
    Serial.print(".");
  }
  Serial.println("WiFi connected");
}

void loop() {
  float humidity = dht.readHumidity();
  float temperature = dht.readTemperature();
  
  if (isnan(humidity) || isnan(temperature)) {
    Serial.println("Failed to read from DHT sensor!");
    return;
  }
  
  Serial.print("Humidity: ");
  Serial.print(humidity);
  Serial.print(" %\t");
  Serial.print("Temperature: ");
  Serial.print(temperature);
  Serial.println(" *C");
  
  delay(2000);
}

このような複雑な処理も、今は簡単に実装できます。10年前は、Wi-Fi通信だけで大変な思いをしていました。

実践的な応用:ロボット制御とモーター制御

Arduinoはモーター制御を得意としており、DCモーターを使った自律走行ロボットやドローンの自作に最適です。複数のモーターやセンサーを必要とする多脚ロボットやロボットアームの制御も、Arduino Mega 2560なら54本のデジタル入出力ピンと16本のアナログ入力ピンで実現できます。

例えば、2つのDCモーターを制御して車輪付きロボットを動かす場合:

#define MOTOR_A_PIN1 8
#define MOTOR_A_PIN2 9
#define MOTOR_B_PIN1 10
#define MOTOR_B_PIN2 11

void setup() {
  pinMode(MOTOR_A_PIN1, OUTPUT);
  pinMode(MOTOR_A_PIN2, OUTPUT);
  pinMode(MOTOR_B_PIN1, OUTPUT);
  pinMode(MOTOR_B_PIN2, OUTPUT);
}

void moveForward() {
  digitalWrite(MOTOR_A_PIN1, HIGH);
  digitalWrite(MOTOR_A_PIN2, LOW);
  digitalWrite(MOTOR_B_PIN1, HIGH);
  digitalWrite(MOTOR_B_PIN2, LOW);
}

void turnLeft() {
  digitalWrite(MOTOR_A_PIN1, LOW);
  digitalWrite(MOTOR_A_PIN2, LOW);
  digitalWrite(MOTOR_B_PIN1, HIGH);
  digitalWrite(MOTOR_B_PIN2, LOW);
}

void loop() {
  moveForward();
  delay(2000);
  turnLeft();
  delay(1000);
}

このような制御も、直感的に実装できるようになっています。

2025年の大きな変化:10年前との比較

ワイヤレス機能の標準化

10年前は、Wi-FiやBluetoothを使いたければ、別途モジュール(XBeeなど)を購入して接続する必要がありました。今は、マイコン内蔵が標準です。これにより、IoTプロジェクトの実装が格段に容易になりました。

クラウド連携の容易さ

当時は、クラウドとの連携は高度な技術でした。今は、Arduino Cloudを使えば、ほぼノーコードでクラウド連携が実現できます。

エコシステムの充実

オープンソース・エコシステムが巨大に成長しました。200点以上の部品が含まれるスターターキットや、豊富なライブラリが利用できるようになりました。これにより、初心者でも複雑なプロジェクトに挑戦しやすくなっています。

Raspberry Piとの棲み分け

10年前と異なり、ArduinoとRaspberry Piは競合するだけでなく、互いの得意分野を活かして連携させることが増えています。Arduinoでリアルタイム制御を行い、その結果をRaspberry Piで処理・分析するといった使い方が主流になっています。

2025年のマイコン・IoT界隈のトレンド

セキュリティ強化への対応

IoT製品のセキュリティ課題も急速に進化しています。ユビAIは2025年11月に、耐量子暗号への対応を低価格マイコンで実現することに成功したと発表しました。量子コンピュータの脅威に備えた暗号化技術が、一般的なマイコンレベルで実装可能になったのは大きな進展です。

これは、IoTデバイスのセキュリティが単なるオプションではなく、必須要件になりつつあることを示しています。

セルラー接続の拡充

STマイクロエレクトロニクスは2025年11月、NB-IoT無線モジュール「ST87M01ファミリ」に2製品を追加し、開発エコシステムを強化しました。新製品には位置情報追跡機能も搭載され、スマート物流や環境モニタ、産業機器の状態監視など、実用的なアプリケーションが広がっています。

市場規模の拡大

2025年の半導体市場は生成AIやデータセンター向け需要で7,000億ドルを超え、2026年も8~10%の成長が見込まれています。特にアジア太平洋地域での成長が顕著です。

これは、マイコン・IoT市場が単なるニッチな領域ではなく、グローバルな産業として成長していることを意味しています。

復帰時の実践的なアドバイス

まずは小さく始める

10年のブランクがあるなら、最初は小さなプロジェクトから始めることをお勧めします。Lチカから始めて、徐々に複雑さを増していく。この段階的なアプローチが、最も効果的です。

公式ドキュメントを信頼する

Arduino公式のドキュメントは、この10年で大幅に改善されています。わからないことがあったら、まずは公式ドキュメントを参照してください。

コミュニティを活用する

Arduinoコミュニティは非常に活発です。質問サイトやフォーラムで、ほぼすべての疑問に対する回答が見つかります。遠慮なく質問してください。

バージョン互換性に注意

Arduino IDE、ボードマネージャー、ライブラリのバージョン組み合わせが適切でないとエラーが発生することがあります。プロジェクトごとに動作確認済みのバージョン組み合わせを記録しておくことをお勧めします。

複数の言語を試す

ArduinoスケッチだけでなくPythonやMicroPythonも試してみてください。自分に合った言語で開発することで、生産性が大幅に向上します。

まとめ:2025年のマイコン・IoT界隈は「当たり前の時代」へ

10年前と比べて、マイコン・IoT界隈はAI統合、クラウド連携、セキュリティ強化、ハードウェア多様化という4つの大きな進化を遂げています。

かつて「特別な技術」だったものが、今では「当たり前の機能」になりつつあります。エッジAIはもはや珍しくなく、クラウド連携は標準的です。セキュリティも、最初から設計に組み込むのが常識になっています。

初心者にとっては、この充実した環境はまさに福音です。昔のように、複雑な環境構築に時間を費やす必要はありません。すぐにプロジェクトを始められます。

一方、プロフェッショナルにとっても、この進化は大きなチャンスです。これまで実現できなかったような複雑なIoTソリューションが、今なら実装可能です。

10年ぶりのArduino復帰は、新しい世界への入口です。この充実したエコシステムを活用して、自分のアイデアを形にしてみてください。2025年のマイコン・IoT界隈は、あなたの創意工夫を心待ちにしています。

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