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🎙️ 音声: ずんだもん / 春日部つむぎ(VOICEVOX)
2025年のスマートフォン市場は、先進国ではApple・Samsungなどプレミアム勢が利益を独占する一方、新興国ではTranssion・Xiaomi・OPPOなど中国系ブランドがボリュームゾーンを支配する「二層構造」へ進化しています。Transsionが日本で聞かないのは、技術的障壁というより、市場規模と採算性の問題であり、新興国のプリペイドSIM・低価格帯ニーズに完全適合した事業戦略の結果なのです。
2024年から2025年にかけて、世界のスマートフォン市場は大きな転換点を迎えています。従来は「Apple vs Samsung」という二大勢力の構図が当たり前でしたが、2025年現在、この図式は劇的に変わろうとしています。
市場全体の規模は約5,856億ドルで、2030年に約7,223億ドルへ拡大すると予測されていますが、成長率は年平均3.5%程度と「低成長の成熟市場」化が進んでいます。この環境下で、各メーカーは全く異なる戦略を展開し始めているのです。
特に注目すべきは、グローバルスマホメーカーの出荷シェアランキングに、従来は聞かなかった企業が急速に台頭していることです。その筆頭が、中国・深圳発祥の**Transsion Holdings(伝音科技)**という企業です。多くの日本人にとって初めて聞く名前かもしれませんが、この企業は2025年のスマホ市場で世界4位のシェアを獲得し、唯一の2桁成長を遂行している、極めて重要なプレーヤーなのです。
**Transsion Holdings(伝音科技)**は、2006年に中国・深圳市で設立されたスマートフォンメーカーです。現在は世界スマホメーカーの上位4位に位置しており、極めて重要な特徴として、Transsionは中国国内市場ではほぼ販売していないという点が挙げられます。
Transsionの事業構造は、大きく3つのブランドで構成されています。
TECNO(テクノ):スマートフォンの中核ブランドで、折りたたみ機種や薄型モデルなど、デザイン性を重視した製品ラインアップが特徴です。2023年9月に縦折りスタイルの「Phantom V Flip 5G」を発表し、同年2月には横折り式の「Phantom V」も投入しています。2024年第2四半期には「CAMON 30 Premier 5G」をリリース予定で、この端末は『Android Authority』『Yanko Design』から『Best of MWC 2024賞』を獲得しています。
Infinix(インフィニックス):ゲーミングスマートフォンやハイエンド寄りの製品を展開し、特にアフリカ・東南アジアの若年層ユーザーをターゲットとしています。最新モデルの「Hot 50 Pro+」は4G対応ながら本体厚みは6.8mmという超薄型設計が特徴で、重量は162gと軽量です。2025年には後継機の「Hot 60シリーズ」が登場する見込みで、5G対応になる可能性があります。
itel(アイテル):エントリーレベルの低価格スマートフォンを専門とし、最も価格感度の高い市場セグメントをカバーしています。「Hot 30 5G」は新興国向けの2万円台モデルで、AIカメラを搭載しており、サイズは縦168.51mm、横76.51mm、厚さ9.19mm、重量215gです。
加えて、アフターサービス「Carlcare」やアクセサリーブランド「Oraimo」も展開しており、スマートフォンを中心とした総合的なエコシステムを構築しています。
Transsionの販売地域は、極めて限定的です。アフリカ、南アジア(インド・パキスタン・バングラデシュ等)、東南アジア(フィリピン・インドネシア・タイ等)、中東、南米といった新興市場に特化しており、日本・欧米・中国本土のような先進国市場は対象外としています。
この戦略的な地域限定が、Transsionの急速な成長を可能にしています。2025年現在、Transsionはグローバルスマホメーカーの中で唯一の「2桁成長」を遂行している企業です。これは、新興国市場の急速な拡大と、その市場へのTranssionの適合度の高さを示しています。
地域別の支配力を見ると、その圧倒的さが明確になります。中東・アフリカ(MEA)地域では、Transsionがグループ合計で26%のシェアを獲得しており、うちTECNOだけで17%を占めています。さらにアフリカ全体では、Transsionのシェアは50%を超えるとも報告されており、この地域での支配力は圧倒的です。東南アジアでも、フィリピンでは1位、その他の国でも上位に位置するなど、広範な支配力を確保しています。
Infinixの「Hot 50 Pro+」は、最新モデルとして4G対応ながら本体厚みは6.8mmという超薄型設計が特徴です。重量は162gと軽量で、一般的なストレートタイプのスマートフォンとしては最薄クラスに属します。
薄型スマートフォンは、かつてはスマートフォン市場の主流でしたが、バッテリー容量の増加やカメラ機能の高度化により、次第に厚くなる傾向が続いていました。しかし、新興国ではデザイン性を重視するユーザーが多く、「薄型で軽量」というスマートフォンへの需要は依然として強いのです。
Infinixの薄型機種は、Samsung Galaxy S25 Edgeなどの超高価なプレミアム薄型モデルに対抗する、低価格帯での選択肢を提供しています。
「Hot 30 5G」は新興国向けの2万円台モデルで、AIカメラを搭載しており、サイズは縦168.51mm、横76.51mm、厚さ9.19mm、重量215gです。この価格帯で5G対応を実現するのは、グローバルスマホ市場では極めて稀です。
2025年には後継機の「Hot 60シリーズ」が登場する見込みで、5G対応になる可能性があります。このシリーズは、Infinixの中核製品として、新興国市場での競争力強化を狙ったものと考えられます。
Tecnoは革新的な製品を次々と展開しており、折りたたみスマートフォン市場での存在感を強化しています。
2023年9月に発表された「Phantom V Flip 5G」は、縦折りスタイルの折りたたみスマートフォンです。このモデルは、Samsung Galaxy Z Flipシリーズと同じ形状ながら、大幅に低い価格帯での提供を実現しています。
同年2月に投入された「Phantom V」は横折り式で、Samsung Galaxy Z Foldシリーズと同様のコンセプトを採用しています。Tecnoはさらに「Phantom V Fold2」も展開しており、今後はこのモデルのInfinix版が登場する可能性があります。
Transsionグループの3社は異なる製品展開をしてきましたが、縦折りモデルでは2社が共通プラットフォームを採用し、カラーリングなどの仕様を変えた製品展開を行っています。
2024年第2四半期には「CAMON 30 Premier 5G」をリリース予定で、この端末は『Android Authority』『Yanko Design』から『Best of MWC 2024賞』を獲得しています。
Tecnoはまた、色が変わるスマートフォンなど、先進国の大手メーカーに負けない製品を展開しており、アフリカや南アジア市場で特に人気を博しています。
itelブランドは、エントリーレベルの低価格スマートフォンを専門とし、最も価格感度の高い市場セグメントをカバーしています。このブランドの戦略により、Transsionは市場の最底辺層にまで到達することができるのです。
では、なぜTranssionはこれほどまでに急速に成長できたのでしょうか。その答えは、新興国市場への徹底的な最適化にあります。
Transsionの製品は、一般的に2万円~4万円程度の価格帯に集中しています。この価格帯は、新興国の中産階級や若年層にとって、「手が届きやすいプレミアム製品」として認識されます。Appleの10万円超のiPhoneや、Samsungの高価なGalaxy Sシリーズと比較すると、Transsionの製品は「良い品質を手頃な価格で」という価値提案が明確です。
しかし、単に「安い」だけではありません。Transsionの製品は、その価格帯において驚くべき機能充実度を備えています。例えば、TECNO SPARK 40は、5,200mAhの大容量バッテリーと45W急速充電を搭載し、6.67インチディスプレイで最大120Hzのリフレッシュレートに対応しています。2万円前後の価格帯でこれだけの仕様を実現するのは、グローバルスマホ市場では極めて稀です。
新興国市場では、電力インフラが先進国ほど整備されていない地域も多く、スマートフォンのバッテリー持続時間は極めて重要な購買要因です。Transsionは、この市場ニーズを深く理解し、バッテリー容量と急速充電機能に異常なほどの力を入れています。
TECNO SPARK Slimという機種は、極めて薄いボディ(厚さ5.75~5.93mm)を実現しながら、約5,160~5,200mAhの大容量バッテリーを搭載しています。さらに、6.78インチの1.5K解像度・144Hzリフレッシュレート対応AMOLEDディスプレイという、かなり高スペックな画面を組み込みながら、バッテリー持続時間を確保するという、エンジニアリング的に困難な要求を実現しています。
Transsionの製品が新興国で支配的になった理由の一つに、ローカル仕様への徹底的な対応があります。
Transsionは、新興国特有の流通構造を完全に理解し、活用しています。オンライン販売だけでなく、小売店舗での販売、キャリア販売、マイクロファイナンス企業との提携など、多層的な販売チャネルを構築しています。
特に重要なのは、新興国で急速に拡大している「分割払い・マイクロファイナンス」とのタイアップです。新興国ユーザーの多くは、スマートフォンを一括購入する余裕がなく、月々の分割払いで購入しています。Transsionは、この市場構造を理解し、小売店やキャリア、マイクロレンディング企業との提携を通じて、購買の敷居を下げているのです。
加えて、マーケティング面では、若年層向けのSNSマーケティングやインフルエンサー活用に注力しており、特にInfinixブランドでは、モバイルゲーム「Free Fire」とのコラボレーションを展開し、ゲーミング層への訴求を強化しています。
Transsion傘下のInfinixは、特に興味深い事業戦略を展開しています。
Infinixは、MediaTek Dimensity 8350プロセッサを搭載した「GT 30 Pro」というゲーミングスマートフォンを投入しました。このモデルは、約4万円という価格帯で、高度なゲーミング性能を実現しています。
参考までに、Snapdragon 8 Gen 2を搭載したフラッグシップスマートフォンは、通常10万円以上の価格帯に位置します。Infinixの製品は、完全には同等ではないものの、モバイルゲーム(特にFree Fireなど)のプレイに必要な性能を、約2.5倍安い価格で提供しているのです。
アフリカ・東南アジアでは、モバイルゲーミングが極めて人気があり、特にFree Fireなどのバトルロイアルゲームのプレイヤー数は膨大です。しかし、ハイエンドゲーミングスマートフォンは高価すぎて、大多数のゲーマーにとって手が届きません。Infinixは、この「高性能ゲーミング機への需要があるが、価格が高すぎて購入できない」というニッチ市場に、完全に適合した製品を投入したのです。
同時に、Infinixは薄型スマートフォンの開発にも注力しています。「HOT 60 Pro+」という機種は、厚さ5.95mmという超薄型ボディを実現しながら、5G非対応で価格を抑え、Helio G200プロセッサで必要十分な性能を備えています。
薄型スマートフォンは、かつてはスマートフォン市場の主流でしたが、バッテリー容量の増加やカメラ機能の高度化により、次第に厚くなる傾向が続いていました。しかし、新興国ではデザイン性を重視するユーザーが多く、「薄型で軽量」というスマートフォンへの需要は依然として強いのです。
Infinixの薄型機種は、Samsung Galaxy S25 Edgeなどの超高価なプレミアム薄型モデルに対抗する、低価格帯での選択肢を提供しています。
Transsionが2025年のグローバルスマホ市場で世界4位のシェアを獲得したことは、極めて重要な事実です。同時に、Transsionは唯一の2桁成長を遂行している企業であり、他の大手メーカーが低成長に苦しむ中での高い実績です。
この成長は、新興国市場の急速な拡大と、Transsionの市場戦略がこの地域に完全に適合していることを示しています。
Appleの戦略:先進国でのプレミアム市場を支配し、2025年には14年ぶりに出荷シェア首位を奪還。約19.4%のシェアを獲得しており、特に高価格帯市場での支配力が圧倒的です。
Samsungの戦略:グローバルなボリュームゾーン(低~中価格帯)での圧倒的な支配力を保持。Galaxy Aシリーズに代表される、グローバルな基盤を活用した「市場シェアと販売台数の最大化戦略」を採用しています。
Xiaomiの戦略:「コスパ」という概念の徹底的な追求を通じて、インド・東南アジア・欧州の中価格帯市場で競争を展開。中国国内市場でも強力なプレゼンスを持ち、グローバル全体でコスパを追求するアプローチを採用しています。
Transsionの戦略:新興国市場への徹底的な最適化により、アフリカ・南アジア・東南アジアでの圧倒的な支配力を確立。ボリューム販売と地域特化戦略を組み合わせた、ユニークなアプローチです。
ここで、一つの重要な疑問が生じます。なぜ、世界4位のスマートフォンメーカーであるTranssionは、日本市場ではほぼ存在感がないのでしょうか。
一般的には、「おサイフケータイ(FeliCa)対応が必須だから」という説が流布していますが、これは正確ではありません。FeliCaは確かに日本市場での重要な機能ですが、それだけが理由ではないのです。
より重要な理由は、市場規模と採算性です。日本のスマートフォン市場は、世界市場の約3~4%程度に過ぎません。加えて、日本市場は極めて成熟しており、買い替えサイクルが長く、新規需要が限定的です。
Transsionが得意とする「低~中価格帯でのボリューム販売」という戦略は、日本市場では成立しません。日本のユーザーは、Appleやサムスン、あるいは国内メーカーのシャープ・ソニーといった、既に認知度の高いブランドを選択する傾向が強く、新興メーカーへの乗り換えは容易ではないからです。
日本市場では、ドコモ・au・ソフトバンクといった大手通信キャリアが、スマートフォン販売の大部分を支配しています。これらのキャリアは、既に確立された販売チャネルと、端末割賦販売のシステムを持っており、新規メーカーの参入は極めて困難です。
さらに、日本ユーザーの大多数は「ポストペイド(月額定額+後払い)」で通信サービスを利用しており、キャリアが端末を割賦販売する仕組みが定着しています。Transsionの得意とする「プリペイドSIM+SIMフリー端末」という市場構造は、日本市場ではほぼ存在しません。
日本市場で成功するには、次のようなローカル仕様対応が必須です:
これらの対応には、莫大なコストと時間がかかります。一方、新興国市場では、このようなローカル仕様対応の必要性が限定的であり、Transsionはこの「対応コストが低い市場」に経営資源を集中させることで、高い投資対効果を実現しているのです。
つまり、Transsionが日本市場に進出しないのは、「技術的障壁」ではなく、**「経営判断としての採算性」**なのです。限られた経営資源を、新興国市場の急速な成長機会に集中させることで、グローバルシェア4位という地位を獲得した。これが、Transsionの戦略的意思決定の結果なのです。
2025年のスマホ市場を理解する上で、極めて重要な要素が、新興国市場の「プリペイドSIM主体」という特性です。
特に中東・アフリカ地域では、プリペイドSIM・プリペイド端末ユーザーが極めて多く、推計では「5億人以上のプリペイドユーザー」が存在するとされています。これは、日本のような「ポストペイド(月額定額+後払い)」が標準的な市場とは、全く異なる構造です。
プリペイドSIM市場では、ユーザーは自分の予算に応じて、必要な通信量を前払いで購入します。つまり、通信事業者が端末を割賦販売する仕組みが存在せず、ユーザーは端末を一括購入するか、小売店やマイクロレンディング企業から分割払いで購入する必要があります。
ただし、新興国市場では、「マイクロファイナンス」や「端末ローン」といった仕組みが急速に拡大しており、これが低~中価格帯スマートフォンの需要を押し上げています。
小売店やモバイル決済企業が提供する分割払いサービスにより、月々数千円程度の支払いでスマートフォンを購入できるようになりました。これが、新興国でのスマートフォン普及を加速させ、TranssionやXiaomiなどのコスパメーカーとしてのTranssionの急速な成長を可能にしているのです。
2026年1月時点でメモリ価格の高騰の影響により、Transsionを含む中国スマートフォン大手4社(Xiaomi、OPPO、vivo、Transsion)が2026年の出荷見通しを下方修正しています。
この部品コスト高騰は、低価格帯メーカーにとって特に深刻な課題です。Transsionのビジネスモデルは、低価格帯でのボリューム販売に依存しており、部品コストの上昇は利益率を圧迫する要因となります。
2026年には計4車種の新モデルを投入する計画があり、初の量産モデルとなるEVも予定されています。この多角化戦略により、Transsionは新興国市場でのプレゼンスをさらに強化しようとしています。
2026年は部品コスト高騰の影響を受けながらも、AI機能の常用化と折りたたみスマートフォンの普及が市場全体のトレンドとなる見込みです。
Transsionは、これらのトレンドに対応した製品開発を進めており、特にAI機能の搭載とカメラ性能の向上に注力しています。折りたたみスマートフォンについても、Tecnoの「Phantom V Flip 5G」や「Phantom V Fold2」といった製品を通じて、市場での地位を確立しつつあります。
Transsionのスマートフォンを購入検討する際には、以下のポイントを考慮することが重要です。
2025年のグローバルスマートフォン市場は、先進国での「プレミアム中心の寡占」と、新興国での「多極化と中国系ブランドの支配」という、二層構造へ進化しています。
日本・北米・欧州などの先進国市場では、Appleが利益の大部分を独占し、Samsungがプレミアム帯で競争するという構図が確立しています。加えて、Pixelなどのニッチプレーヤーが中価格帯で存在感を示しています。
これらの市場では、買い替えサイクルが長期化(平均3~4年以上)し、ユーザーは「台数」ではなく「品質・性能・ブランド」で選択する傾向が強まっています。
アジア太平洋地域が世界出荷の約57%を占めるという事実が示すように、新興国市場は、グローバルスマホ市場の最大の成長エンジンです。この市場では、Xiaomi・Transsion・OPPO・vivo・realme・HONORなど、複数の中国系ブランドが激しく競争しており、Appleはプレミアム帯に限定されています。
新興国市場では、「手頃な価格で十分な性能」という価値提案が極めて重要であり、Transsionのような「新興国最適化戦略」を採用したメーカーが、急速に市場シェアを拡大しているのです。
Transsionの台頭は、グローバルスマートフォン市場が、単純な「先進国vs新興国」という二項対立ではなく、より複雑で多層的な構造へ進化していることを示唆しています。
Appleは先進国でのプレミアム市場を支配し、Samsungはグローバルでのボリュームゾーンを押さえ、Transsionは新興国の未開拓市場を急速に支配しつつあります。
このような構造的な変化を理解することなしに、グローバルスマホ市場の将来を予測することはできません。日本市場で「聞かない」メーカーが、世界では4位のシェアを占めるという事実は、市場の多様性と地域性の重要性を強く示唆しているのです。
Transsionのスマートフォンは、新興国ユーザーのニーズに完全に適合した、極めて合理的な製品戦略の結果であり、グローバルスマホ市場の新しい勢力図を象徴する存在なのです。
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