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🎙️ 音声: ずんだもん / 春日部つむぎ(VOICEVOX)
2025年のスマホ市場は、先進国ではApple・Samsungなどプレミアム勢が利益を独占する一方、新興国ではTRANSSION・Xiaomi・OPPOなど中国系ブランドがボリュームゾーンを支配する「二層構造」へ進化しています。TRANSSIONが日本で聞かないのは、技術的障壁というより、市場規模と採算性の問題であり、新興国のプリペイドSIM・低価格帯ニーズに完全適合した事業戦略の結果なのです。
2024年から2025年にかけて、世界のスマートフォン市場は大きな転換点を迎えています。従来は「Apple vs Samsung」という二大勢力の構図が当たり前でしたが、2025年現在、この図式は劇的に変わろうとしています。
市場全体の規模は約5,856億ドルで、2030年に約7,223億ドルへ拡大すると予測されていますが、成長率は年平均3.5%程度と「低成長の成熟市場」化が進んでいます。この環境下で、各メーカーは全く異なる戦略を展開し始めているのです。
特に注目すべきは、グローバルスマホメーカーの出荷シェアランキングに、従来は聞かなかった企業が急速に台頭していることです。その筆頭が、中国・深圳発祥の**TRANSSION(伝音科技)**という企業です。多くの日本人にとって初めて聞く名前かもしれませんが、この企業は2025年のスマホ市場で世界4位のシェアを獲得し、唯一の2桁成長を遂行している、極めて重要なプレーヤーなのです。
まず、先進国市場での状況を整理しましょう。Counterpoint Researchの予測によれば、2025年の世界スマホ出荷シェアでAppleが14年ぶりに首位を奪還します。そのシェアは約19.4%と予測されており、これは極めて象徴的な出来事です。
Appleが首位に返り咲く背景には、複数の要因があります。第一に、iPhone 16シリーズ、特にiPhone 17シリーズが予想を上回る販売実績を上げていることです。2025年Q3時点で、最量販機種として「iPhone 16」が単機種シェア4%を獲得し、3四半期連続でトップに君臨しています。これは他のメーカーの単一機種では到達できない水準です。
第二に、高価格帯スマートフォンの市場シェアが拡大していることが、Appleに有利に働いています。400ドル超の高価格帯スマートフォンのシェアは、2020年時点で15%だったのに対し、2024年には25%へと拡大しています。この高価格帯市場では、Appleが圧倒的な支配力を持っており、利益率も極めて高いのです。
興味深いのは、Appleが「台数」では首位でありながら、「利益」ではさらに圧倒的な支配力を保持していることです。スマートフォン市場全体の利益の大部分がAppleに集中する構図は、2025年でもさらに強化されています。つまり、先進国市場では「台数はそこそこだが、利益はほぼ独占」という、極めて特殊な支配構造が成立しているのです。
Samsungは、2025年のグローバルスマホ市場でも引き続き重要なプレーヤーです。出荷シェアではAppleとの競争を繰り広げていますが、戦略的には全く異なるアプローチを採用しています。
Samsungの強みは、Galaxy Aシリーズに代表される、グローバルなボリュームゾーン(低~中価格帯)での圧倒的な支配力です。2025年Q3の販売トップ10機種には、Galaxy Aシリーズだけで5機種がランクインしており、これは市場全体での広大な基盤を示しています。つまり、Samsungは「Appleのような利益最大化戦略」ではなく、「市場シェアと販売台数の最大化戦略」を採用しているのです。
さらに注目すべきは、Samsungの折りたたみスマートフォン「Galaxy Zシリーズ」が想定を上回る販売実績を上げていることです。折りたたみスマートフォンは、かつてはニッチな高級製品と見なされていましたが、2025年では市場の成長分野として認識されるようになりました。Galaxy Zシリーズの成功は、Android全体のシェア下支え要因となり、Samsungの多角的な事業展開の有効性を証明しています。
さて、ここからが本記事の中心となる話題です。**TRANSSION(伝音科技、Transsion Holdings)**とは、一体どのような企業なのでしょうか。
TRANSSIONは2006年に中国・深圳市で設立された携帯電話メーカーです。本社は広東省深圳市にあり、現在は世界スマホメーカーの上位4位に位置する企業へと成長しました。ただし、極めて重要な特徴として、TRANSSIONは中国国内市場ではほぼ販売していないという点が挙げられます。
TRANSSIONの事業構造は、大きく3つのブランドで構成されています。
TECNO(テクノ):スマートフォンの中核ブランドで、折りたたみ機種や薄型モデルなど、デザイン性を重視した製品ラインアップが特徴です。
Infinix(インフィニックス):ゲーミングスマートフォンやハイエンド寄りの製品を展開し、特にアフリカ・東南アジアの若年層ユーザーをターゲットとしています。
itel(アイテル):エントリーレベルの低価格スマートフォンを専門とし、最も価格感度の高い市場セグメントをカバーしています。
加えて、アフターサービス「Carlcare」やアクセサリーブランド「Oraimo」も展開しており、スマートフォンを中心とした総合的なエコシステムを構築しています。
TRANSSIONの販売地域は、極めて限定的です。アフリカ、南アジア(インド・パキスタン・バングラデシュ等)、東南アジア(フィリピン・インドネシア・タイ等)、中東、南米といった新興市場に特化しており、日本・欧米・中国本土のような先進国市場は対象外としています。
この戦略的な地域限定が、TRANSSIONの急速な成長を可能にしています。2025年現在、TRANSSIONはグローバルスマホメーカーの中で唯一の「2桁成長」を遂行している企業です。これは、新興国市場の急速な拡大と、その市場へのTRANSSIONの適合度の高さを示しています。
地域別の支配力を見ると、その圧倒的さが明確になります。中東・アフリカ(MEA)地域では、TRANSSIONがグループ合計で26%のシェアを獲得しており、うちTECNOだけで17%を占めています。さらにアフリカ全体では、TRANSSIONのシェアは50%を超えるとも報告されており、この地域での支配力は圧倒的です。東南アジアでも、フィリピンでは1位、その他の国でも上位に位置するなど、広範な支配力を確保しています。
では、なぜTRANSSIONはこれほどまでに急速に成長できたのでしょうか。その答えは、新興国市場への徹底的な最適化にあります。
1. 価格戦略と機能のバランス
TRANSSIONの製品は、一般的に2万円~4万円程度の価格帯に集中しています。この価格帯は、新興国の中産階級や若年層にとって、「手が届きやすいプレミアム製品」として認識されます。Appleの10万円超のiPhoneや、Samsungの高価なGalaxy Sシリーズと比較すると、TRANSSIONの製品は「良い品質を手頃な価格で」という価値提案が明確です。
しかし、単に「安い」だけではありません。TRANSSIONの製品は、その価格帯において驚くべき機能充実度を備えています。例えば、TECNO SPARK 40は、5,200mAhの大容量バッテリーと45W急速充電を搭載し、6.67インチディスプレイで最大120Hzのリフレッシュレートに対応しています。2万円前後の価格帯でこれだけの仕様を実現するのは、グローバルスマホ市場では極めて稀です。
2. 大容量バッテリーと急速充電への執着
新興国市場では、電力インフラが先進国ほど整備されていない地域も多く、スマートフォンのバッテリー持続時間は極めて重要な購買要因です。TRANSSIONは、この市場ニーズを深く理解し、バッテリー容量と急速充電機能に異常なほどの力を入れています。
TECNO SPARK Slimという機種は、極めて薄いボディ(厚さ5.75~5.93mm)を実現しながら、約5,160~5,200mAhの大容量バッテリーを搭載しています。さらに、6.78インチの1.5K解像度・144Hzリフレッシュレート対応AMOLEDディスプレイという、かなり高スペックな画面を組み込みながら、バッテリー持続時間を確保するという、エンジニアリング的に困難な要求を実現しています。
3. ローカル仕様への徹底的な対応
TRANSSIONの製品が新興国で支配的になった理由の一つに、ローカル仕様への徹底的な対応があります。
4. 流通網とマーケティングの最適化
TRANSSIONは、新興国特有の流通構造を完全に理解し、活用しています。オンライン販売だけでなく、小売店舗での販売、キャリア販売、マイクロファイナンス企業との提携など、多層的な販売チャネルを構築しています。
特に重要なのは、新興国で急速に拡大している「分割払い・マイクロファイナンス」とのタイアップです。新興国ユーザーの多くは、スマートフォンを一括購入する余裕がなく、月々の分割払いで購入しています。TRANSSIONは、この市場構造を理解し、小売店やキャリア、マイクロレンディング企業との提携を通じて、購買の敷居を下げているのです。
加えて、マーケティング面では、若年層向けのSNSマーケティングやインフルエンサー活用に注力しており、特にInfinixブランドでは、モバイルゲーム「Free Fire」とのコラボレーションを展開し、ゲーミング層への訴求を強化しています。
TRANSSION傘下のInfinixは、特に興味深い事業戦略を展開しています。
Infinixは、MediaTek Dimensity 8350プロセッサを搭載した「GT 30 Pro」というゲーミングスマートフォンを投入しました。このモデルは、約4万円という価格帯で、高度なゲーミング性能を実現しています。
参考までに、Snapdragon 8 Gen 2を搭載したフラッグシップスマートフォンは、通常10万円以上の価格帯に位置します。Infinixの製品は、完全には同等ではないものの、モバイルゲーム(特にFree Fireなど)のプレイに必要な性能を、約2.5倍安い価格で提供しているのです。
アフリカ・東南アジアでは、モバイルゲーミングが極めて人気があり、特にFree Fireなどのバトルロイアルゲームのプレイヤー数は膨大です。しかし、ハイエンドゲーミングスマートフォンは高価すぎて、大多数のゲーマーにとって手が届きません。Infinixは、この「高性能ゲーミング機への需要があるが、価格が高すぎて購入できない」というニッチ市場に、完全に適合した製品を投入したのです。
同時に、Infinixは薄型スマートフォンの開発にも注力しています。「HOT 60 Pro+」という機種は、厚さ5.95mmという超薄型ボディを実現しながら、5G非対応で価格を抑え、Helio G200プロセッサで必要十分な性能を備えています。
薄型スマートフォンは、かつてはスマートフォン市場の主流でしたが、バッテリー容量の増加やカメラ機能の高度化により、次第に厚くなる傾向が続いていました。しかし、新興国ではデザイン性を重視するユーザーが多く、「薄型で軽量」というスマートフォンへの需要は依然として強いのです。
Infinixの薄型機種は、Samsung Galaxy S25 Edgeなどの超高価なプレミアム薄型モデルに対抗する、低価格帯での選択肢を提供しています。
TRANSSIONの台頭とは別に、Xiaomiも新興国市場でのシェアを拡大し続けています。2025年現在、Xiaomiはグローバルスマホメーカーの第3位に位置しており、中国系ブランドの中では最も国際的な展開を遂行しています。
Xiaomiの強みは、「コスパ」という概念の徹底的な追求です。Redmiシリーズを中心に、低価格帯でありながら高い機能性を実現した製品ラインアップを展開しており、インド・東南アジア・欧州の中価格帯市場で、Samsungの「Galaxy A」シリーズと直接競争しています。
Xiaomiは、TRANSSIONと異なり、中国国内市場でも強力なプレゼンスを持ち、欧州市場でも存在感を示しています。つまり、「新興国に特化」するのではなく、「グローバル全体でコスパを追求」するアプローチを採用しているのです。
Huaweiから独立したHONORも、2025年のスマホ市場で注目すべき存在です。独立後、HONORは欧州・中東・中国でプレゼンスを拡大し、ハイエンドの「Magic」シリーズとミッドレンジの製品を両立させるポートフォリオを構築しています。
特に中国市場では、HarmonyOSを搭載したHONOR端末が拡大を続けており、グローバル販売シェアでもHONORが上昇傾向にあります。
一部調査では、GoogleのPixelスマートフォンが、グローバルメーカーシェアでTop5圏内に入るとされています。これは、かつてのPixelが限定的な市場存在感しか持っていなかったことを考えると、極めて劇的な変化です。
Pixelの強みは、Googleの親会社としての立場を活かした、OSレベルでの最適化と、AI機能の統合です。特に日本・北米・欧州のミドル~プレミアム帯で、Pixelのシェアが拡大傾向にあります。
スマートフォン市場全体を、OSの観点から見ると、その構成は極めて明確です。2025年Q3の販売ベースで、**Androidが約79%、iOSが約17%**のシェアを占めています。
ただし、この統計には重要な地域差があります。中国国内では、HuaweiやHONOR端末に搭載されるHarmonyOSが約14%のシェアを獲得しており、第2位OSとしての地位を確立しつつあります。これは、米国の対中制裁に対抗するHuaweiの戦略的な取り組みの成果であり、中国市場でのOS多様化を示唆しています。
2025年のスマホ市場を理解する上で、極めて重要な要素が、新興国市場の「プリペイドSIM主体」という特性です。
特に中東・アフリカ地域では、プリペイドSIM・プリペイド端末ユーザーが極めて多く、推計では「5億人以上のプリペイドユーザー」が存在するとされています。これは、日本のような「ポストペイド(月額定額+後払い)」が標準的な市場とは、全く異なる構造です。
プリペイドSIM市場では、ユーザーは自分の予算に応じて、必要な通信量を前払いで購入します。つまり、通信事業者が端末を割賦販売する仕組みが存在せず、ユーザーは端末を一括購入するか、小売店やマイクロレンディング企業から分割払いで購入する必要があります。
ただし、新興国市場では、「マイクロファイナンス」や「端末ローン」といった仕組みが急速に拡大しており、これが低~中価格帯スマートフォンの需要を押し上げています。
小売店やモバイル決済企業が提供する分割払いサービスにより、月々数千円程度の支払いでスマートフォンを購入できるようになりました。これが、新興国でのスマートフォン普及を加速させ、TRANSSIONやXiaomiなどの低~中価格帯メーカーの急速な成長を可能にしているのです。
インド市場では、政府の「生産連動型インセンティブ(PLI)」という製造優遇策が、スマートフォン産業の成長を後押ししています。このPLIにより、Xiaomi、TRANSSION、OPPO、vivoなどのメーカーが、インドでの現地生産を拡大し、コスト競争力を強化しています。
2025年のグローバルスマホ市場は、先進国と新興国で全く異なる構造を持つようになっています。
日本・北米・欧州などの先進国市場では、Appleが利益の大部分を独占し、Samsungがプレミアム帯で競争するという構図が確立しています。加えて、Pixelなどのニッチプレーヤーが中価格帯で存在感を示しています。
これらの市場では、買い替えサイクルが長期化(平均3~4年以上)し、ユーザーは「台数」ではなく「品質・性能・ブランド」で選択する傾向が強まっています。
アジア太平洋地域が世界出荷の約57%を占めるという事実が示すように、新興国市場は、グローバルスマホ市場の最大の成長エンジンです。この市場では、Xiaomi・TRANSSION・OPPO・vivo・realme・HONORなど、複数の中国系ブランドが激しく競争しており、Appleはプレミアム帯に限定されています。
新興国市場では、「手頃な価格で十分な性能」という価値提案が極めて重要であり、TRANSSIONのような「新興国最適化戦略」を採用したメーカーが、急速に市場シェアを拡大しているのです。
ここで、一つの重要な疑問が生じます。なぜ、世界4位のスマートフォンメーカーであるTRANSSIONは、日本市場ではほぼ存在感がないのでしょうか。
一般的には、「おサイフケータイ(FeliCa)対応が必須だから」という説が流布していますが、これは正確ではありません。FeliCaは確かに日本市場での重要な機能ですが、それだけが理由ではないのです。
より重要な理由は、市場規模と採算性です。日本のスマートフォン市場は、世界市場の約3~4%程度に過ぎません。加えて、日本市場は極めて成熟しており、買い替えサイクルが長く、新規需要が限定的です。
TRANSSIONが得意とする「低~中価格帯でのボリューム販売」という戦略は、日本市場では成立しません。日本のユーザーは、Appleやサムスン、あるいは国内メーカーのシャープ・ソニーといった、既に認知度の高いブランドを選択する傾向が強く、新興メーカーへの乗り換えは容易ではないからです。
日本市場では、ドコモ・au・ソフトバンクといった大手通信キャリアが、スマートフォン販売の大部分を支配しています。これらのキャリアは、既に確立された販売チャネルと、端末割賦販売のシステムを持っており、新規メーカーの参入は極めて困難です。
さらに、日本ユーザーの大多数は「ポストペイド(月額定額+後払い)」で通信サービスを利用しており、キャリアが端末を割賦販売する仕組みが定着しています。TRANSSIONの得意とする「プリペイドSIM+SIMフリー端末」という市場構造は、日本市場ではほぼ存在しません。
日本市場で成功するには、次のようなローカル仕様対応が必須です:
これらの対応には、莫大なコストと時間がかかります。一方、新興国市場では、このようなローカル仕様対応の必要性が限定的であり、TRANSSIONはこの「対応コストが低い市場」に経営資源を集中させることで、高い投資対効果を実現しているのです。
つまり、TRANSSIONが日本市場に進出しないのは、「技術的障壁」ではなく、**「経営判断としての採算性」**なのです。限られた経営資源を、新興国市場の急速な成長機会に集中させることで、グローバルシェア4位という地位を獲得した。これが、TRANSSIONの戦略的意思決定の結果なのです。
ここで、日本市場における「プリペイド型」サービスについて触れておくことは有意義です。KDDIが提供する「povo 2.0」は、日本市場では極めて異質なサービスモデルです。
povo 2.0は、基本料0円で、ユーザーが必要に応じて「トッピング」という形で、通信容量や期限を前払いで購入するシステムです。これは、新興国の「プリペイドSIM」の概念に極めて近いものです。
ただし、日本市場全体で見ると、povo 2.0のようなプリペイド型サービスは、依然として極めて少数派です。国内の主流は、ドコモ・au・ソフトバンクの「月額定額+後払い」というポストペイドモデルであり、この構造的な違いが、日本市場での新興メーカー参入の障壁となっているのです。
グローバルスマホ市場全体を見ると、一つの重要なトレンドが明確です。それは、買い替えサイクルの長期化です。
かつてのスマートフォン市場では、2~3年ごとの買い替えが一般的でした。しかし、2025年現在、スマートフォンの基本的な性能が成熟し、大多数のユーザーにとって「十分な性能」が実現されたため、買い替えのモチベーションが低下しています。
この買い替えサイクル長期化により、市場は「台数」から「単価」へシフトしています。つまり、新規販売台数の成長は限定的であり、代わりに「より高機能・高価格な製品への買い替え」が、市場成長の主要な源泉となっているのです。
Appleが首位奪還できた理由も、この「高価格帯シェア拡大」という傾向と密接に関連しています。Appleは、高価格帯市場でのシェアと利益率の両方を最大化することで、全体的なシェア首位を実現したのです。
400ドル超の高価格帯スマートフォンのシェア拡大は、グローバルスマホ市場の極めて重要なトレンドです。2020年の15%から2024年の25%へと、わずか4年で10ポイント拡大しています。
この高価格帯市場では、Appleが圧倒的な支配力を持ち、Samsungがプレミアム帯(Galaxy S、Galaxy Z Fold)で競争しています。加えて、Xiaomiなども高価格帯製品を投入していますが、ブランド力と利益率ではAppleに及びません。
重要なのは、スマートフォン市場全体の利益の大部分が、この高価格帯に集中しているということです。つまり、グローバルスマホ市場は、「台数では多極化、利益では一極集中」という、極めて非対称な構造を持つようになっているのです。
スマートフォン市場の成長率が年平均3.5%程度という「低成長」であることは、今後の市場競争の激化を示唆しています。
低成長市場では、メーカーが成長を実現するために採用可能な戦略は、本質的に限定的です。新規市場の開拓、既存ユーザーからのシェア奪取、あるいは買い替えサイクル短縮化のための差別化という、いずれかの戦略を採用する必要があります。
TRANSSIONの戦略は、「新興国市場の開拓」と「既存ユーザーからのシェア奪取」という、最初の二つのアプローチを組み合わせたものです。Appleの戦略は、「高価格帯市場での利益最大化」という、差別化戦略に近いものです。
2025年のグローバルスマートフォン市場は、先進国での「プレミアム中心の寡占」と、新興国での「多極化と中国系ブランドの支配」という、二層構造へ進化しています。
Appleは先進国でのプレミアム市場を支配し、Samsungはグローバルでのボリュームゾーンを押さえ、TRANSSIONは新興国の未開拓市場を急速に支配しつつあります。
この構造的な変化を理解することなしに、グローバルスマホ市場の将来を予測することはできません。日本市場で「聞かない」メーカーが、世界では4位のシェアを占めるという事実は、市場の多様性と地域性の重要性を強く示唆しているのです。
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