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🎙️ 音声: ずんだもん / 春日部つむぎ(VOICEVOX)
2025年のメモリ高騰は、AI需要とトランプ関税という構造的要因による長期的な危機です。消費者にとって完全な逃げ道はありませんが、本当に必要な場合は即座に購入し、そうでなければ最適化で耐えるか様子見することが、供給逼迫の悪化を防ぎ、本当に必要とする人にメモリが届く環境を作ることにつながります。
2025年12月現在、パソコン用メモリの価格が異常な水準に達しています。特にDDR5メモリは9月時点の1万1,000円~1万3,000円(32GBキット)から、わずか3ヶ月で5万円~6万円へと4~5倍に跳ね上がりました。この急激な価格上昇は、単なる一時的な需給ギャップではなく、複数の構造的要因が重なった結果なのです。
DDR4メモリも同様に影響を受けており、全体的なDRAM市場は2025年を通じて50%以上の上昇を記録しています。第4四半期だけで30%の増加、そして2026年初頭にはさらに20%の上昇が予測されているという深刻な状況が続いています。
秋葉原などの主要な電子部品販売店では購入制限が実施され、注文キャンセルが多発しています。TSUKUMO、マウスコンピューター、フロンティアといったBTO(Build to Order)パソコンメーカーの多くが新規注文の受け付けを一時停止するか、納期を2026年1月末以降に延期する事態に陥っています。
メモリ高騰の最大の原因は、生成AIブームによる企業向けサーバー需要の爆発的な増加です。OpenAIやGoogle、Microsoftといった大手テック企業がAI学習・推論用の高性能メモリを大量発注したことで、半導体メーカーの生産リソースが一気にAI向けに集中してしまいました。
特に重要な変化は、メモリメーカーがHBM(High Bandwidth Memory)という高速・高容量のAI向けメモリ生産に経営資源を集中させたことです。HBMの利益率は汎用DDR5の3~5倍にも達するため、経営的には合理的な判断ですが、その結果として消費者向けDRAM生産が物理的に減少しました。
Samsung、SK Hynix、Micronといった世界的なメモリメーカーは、同じシリコンウェーハからHBM生産を行うことで、材料消費が3倍に増加しています。つまり、同じ工場でHBMを作ると、その分DDR4やDDR5を作る余裕がなくなるということです。
OpenAIとの契約だけで、世界的なメモリ生産能力の40%相当を占めるほどの規模になっています。これは消費者向けPC市場全体の需要をはるかに上回る数字であり、メモリメーカーにとってAI企業との契約を優先することは、株主利益の観点からも避けられない選択となったわけです。
興味深いことに、メモリメーカーは高騰に対して増産で応じていません。むしろ逆です。2000年代のシリコンサイクル(過剰生産による価格暴落)の教訓から、メーカーは意図的に供給を制限することで利益率を維持しようとしています。
Micronは2026年2月に消費者向けDRAM事業からの撤退を発表しており、Crucialブランドの製品が在庫限りで廃止される予定です。これは市場に対して「メモリの供給は今後さらに逼迫する」というシグナルを送っています。
Samsungは自社メモリ供給を優先し、外部への供給を拒否する動きも見られています。各メーカーが高利益のHBM生産に経営資源を集中させる中、DDR4やDDR5といった「儲からない」汎用メモリは後回しにされているのが現実なのです。
メモリ高騰を加速させるもう一つの重要な要因が、トランプ政権による関税政策と中国との貿易紛争です。単なるAI需要だけであれば、メーカーは在庫を積み増すことで対応可能ですが、地政学的リスクがそれを困難にしています。
トランプ政権の中国向け関税と、中国側の報復的な輸出規制により、半導体流通が大きく制限されています。メーカーにとって、将来の関税上昇に備えて在庫を事前に積み増すことは経営判断として重要なのですが、その判断が難しくなっているのです。
関税がいつ、どの程度上昇するのか不確実な状況では、過度な在庫積み増しはリスクとなります。結果として、メーカーは必要最小限の生産に留め、供給逼迫を容認する戦略を取らざるを得なくなっています。
2025年を通じて、DRAM価格は第3四半期に前年比172%上昇を記録しており、これは単なる需給ギャップではなく、地政学的リスクプレミアムが上乗せされた結果と考えられます。
トランプ関税の影響は、メモリ価格だけに留まりません。PS5やXboxといったゲーム機は既に米国での関税により値上げされており、さらにメモリ・SSD高騰による製造原価増加(製造原価の30%を占める部品の数倍高騰)が追い討ちをかけています。
ノートパソコンやデスクトップパソコンも同様で、メーカー製PCは2025年12月時点で価格改定を進行中です。2026年には10%を超える値上げが予想されており、消費者の購買力に直結する影響が出始めています。
メモリ高騰の背景には、メモリ価格だけでなく、半導体製造そのものの構造的な課題があります。世界的なAI投資ブームにより、データセンター建設ラッシュと半導体工場の増設が同時進行しており、両者が電力と人材をめぐって競争しています。
AI向けデータセンターと半導体製造工場の両方が、膨大な電力を消費します。2025年の世界半導体市場が約7,000億ドル規模に拡大し、特にAI関連が2025~2030年の年平均成長率16%(全体の8%を大きく上回る)で成長する中、電力インフラが追いつかない地域が出始めています。
半導体製造工場は24時間稼働が前提であり、一度の停電も許されません。各国政府が半導体製造拠点の地域分散を進めるため補助金や税制優遇を提供していますが、電力供給の整備が間に合わないケースが増えています。
半導体製造は高度な技術を要する産業であり、単なる労働力ではなく、専門知識を持つエンジニアが必要です。しかし、急速な産業拡大に人材育成が追いつかず、2025年を通じて「少なくとも数年は供給逼迫が継続する」という見通しが業界コンセンサスとなっています。
メーカーが生産能力をAIインフラに優先配分する中で、従来型メモリやスマートフォン向けメモリは後回しにされます。結果として、AI・EV向けメモリは深刻な不足が続く一方で、従来型メモリは供給過剰になるという「二極化」が進行しているのです。
メモリ高騰の影響は、パソコン市場だけに留まりません。スマートフォン市場でも、確実にスペックダウンが進行しており、2026年以降はユーザーが実感できるレベルの性能低下が予想されています。
スマートフォンはDDRではなくLPDDR(Low Power DRAM)を使用しており、これはSoC(システムオンチップ)に内蔵されているため交換不可能です。しかし、LPDDR生産も同じメーカーが行っており、HBM優先生産の影響を受けています。
スマートフォンのBOM(部品表)コストが10~25%上昇し、特に低価格帯で20~30%の増加が見られています。メーカーはこのコスト増に対応するため、スペックダウンという戦略を取らざるを得なくなっています。
2026年以降、スマートフォン市場では以下のような変化が予想されています:
Appleは大量契約により相対的に価格安定を保っていますが、iPhone 17 ProのLPDDR5Xメモリ価格は30ドルから70ドルへと2倍以上に高騰しています。
パソコン市場は、メモリ高騰の最も直接的な影響を受けている分野です。ノートパソコンとデスクトップパソコンの両方で、価格上昇とスペック調整が同時進行しています。
BTO(カスタマイズ可能なパソコン)メーカーの多くが、メモリ高騰に対応するため価格改定を進めています。高クロック・大容量メモリを選択した場合の価格上昇は特に顕著で、32GBメモリオプションを選ぶと、数ヶ月前の新規注文より数万円高くなる事態が発生しています。
一部のメーカーは注文受け付けを停止し、納期を2026年1月末以降に延期する措置を取っています。これは単なる「納期が遅い」というレベルではなく、供給チェーン全体が機能不全に陥っていることを示唆しています。
メーカー製パソコンも価格改定の波に見舞われており、2026年に10%を超える値上げが予想されています。
新品価格の上昇に伴い、中古パソコン市場にも影響が波及しています。特に興味深い現象は、メモリ容量が多い旧世代パソコンの価格が上昇していることです。
Ryzen 7 5800X3Dなどの旧世代CPUの中古価格が高騰しており、これはDDR4メモリの供給逼迫が原因と考えられます。新規にDDR5システムを構築するより、既存のDDR4システムを中古で購入する方が経済的に有利になっているからです。
DDR4メモリの生産が縮小される中で、DDR4対応の旧世代パソコンは「メモリ価値の上昇」により相対的に割高化しています。中古市場でも「安い選択肢」という従来の特徴が失われつつあるのです。
メモリ高騰に直面した消費者には、限られた選択肢しかありません。しかし、その中でも最適な判断をすることは可能です。
パソコンやメモリが本当に必要な場合は、躊躇せずに今すぐ購入することが推奨されます。1週間で10~20%の価格上昇が起きている状況では、「安くなるまで待つ」という戦略は機能しません。
Crucial製品は2026年2月で廃止予定であり、在庫限りとなっています。メーカー製パソコン(ノートパソコンやデスクトップパソコン)も2025年12月時点ではまだ影響が限定的ですが、2026年初頭には本格的な価格改定が実施される見込みです。
64GBのメモリが希望でも32GBで妥協する、32GBが必要でも16GBで我慢するというアプローチも有効です。メモリは後から増設できるパソコンであれば、今は最小限の容量で購入し、価格が落ち着いた後に追加購入するという選択肢も存在します。
ただし、MacBook Airなどのメモリがはんだ付けされているパソコンの場合は、増設が不可能なため、購入時に適切な容量を選ぶ必要があります。
新規購入が本当に必要でない場合は、現在使用しているパソコンを最適化することで、メモリ不足の問題を解決できる可能性があります。
MacBook Air M1で時々メモリ不足が発生する場合、まずはアクティビティモニターでメモリプレッシャーを確認し、負荷の高いプロセスを特定することから始めましょう。ストレージの空き容量を20%以上確保し、不要なアプリケーションを削除し、ブラウザのタブ数を減らすといった基本的な最適化で、多くの場合は問題が解決します。
ログインアイテムを整理し、アプリケーションを完全に終了する(Command+Q)、週1~2回の再起動を実施するといった習慣的な対策も有効です。
メモリ高騰による供給逼迫の悪化を防ぐには、消費者側の自制も重要です。焦り買いや投機的な購入が増えると、市場在庫が一気に吸い上げられ、本当に必要とする人にメモリが届かなくなります。
高クロック・大容量メモリは発注しても大幅な納期遅延やキャンセルが発生しています。これは単なる「品薄」ではなく、メーカーが意図的に供給を制限している結果です。
消費者が不要な購入を控えることで、メーカーの生産リソースが本当に必要とする人に届きやすくなります。特に企業向けの大量発注に対応するため、メーカーは限られた生産能力を優先順位に基づいて配分しています。
焦り買いが増えると、価格がさらに上昇し、それがさらに焦り買いを招くという悪循環が生じます。消費者が冷静に「本当に必要か」を判断することで、この悪循環を断つことができます。
特に、「とりあえず安いうちに買っておこう」という投機的な購入は、市場全体の安定化を妨げる要因となります。
メモリ高騰は2026年も高止まりが濃厚であり、安値復帰の可能性は低いというのが業界の一般的な見通しです。
AI投資は2026年以降も継続される見込みであり、HBM需要は減少しません。メモリメーカーの増産遅れも解消される見込みは低く、供給制約は数年単位で続くと予想されています。
トランプ政権の関税政策も不確実な状況が続く可能性が高く、地政学的なリスクプレミアムが価格に上乗せされ続けるでしょう。
2026年以降も価格が高止まりすることを前提に、消費者は以下の戦略を検討すべきです:
2025年のメモリ高騰は、AI需要、トランプ関税、半導体製造の構造的制約という複数の要因が重なった結果です。消費者にとって完全な逃げ道はありませんが、冷静な判断が市場全体の安定化に貢献します。
本当に必要な場合は即座に購入し、そうでなければ現在のパソコンを最適化して対応する。この二者択一の判断を、消費者が自制的に行うことで、本当に必要とする人にメモリが届く環境を作ることができます。
メモリ高騰は一時的な現象ではなく、構造的な変化の表れです。消費者もこの現実を理解し、長期的な視点を持って対応することが求められる時代になったのです。
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